あごの骨の量が少ない方の場合 (骨造成手術➡骨移植手術)
上記写真Aは健全な下あごです。写真Bは歯が失われ時間が経過し骨の吸収が認られた状態です。
歯を失い時間が経つと骨は形態を変化し,さらに時が経つと次第に入れ歯も合いづらくなります。
それなら....。
『インプラントを固定源にした入れ歯やブリッジにすれば良く噛めるのではないか?』
と考えますが,
骨が通常より薄く細くなった状態ではシッカリとしたインプラントは埋入できません。
そのため,インプラント前処置として骨を作る骨造成手術が必要になります。
重要)適切なサイズのインプラントを使用することが,
将来的に安心のできるインプラント治療の基本です。
柱となるインプラントのサイズは太く長い方が骨との接触面積が大きくなり,長期に渡り安定した状態を維持しやすくなります。また,その土台となる,あごの骨も高さや厚みがあり硬くシッカリしていることが良い条件とされています。
しかしながら,長年の入れ歯での生活や歯周病による骨の吸収などにより,あごの骨が薄く通常の方法ではインプラント治療が困難と診断された方には,あらかじめ骨を作らせて頂きます。
『移植材料に関しては色々な生体材料がございますが,基本的にはご自身の骨が一番です』。
インプラントと骨の適切な位置関係について!!
インプラントが骨と結合(オステオインテグレーション)し維持安定をさせるためには,最低でも1ミリから1.5ミリ以上の骨幅が周囲に必要です。
なぜなら.....。
骨内に埋入されたインプラントは言わば骨の形態維持に必要な血液循環を塞き止める防波堤となります。そのため,1ミリ以下の薄い骨幅では骨の血液循環が失われしまい骨形態が維持できずに吸収し無くなってしまうからです。(Figure:Straumann®資料改編)
さまざまな骨造成手術方法についてご説明いたします。
顎堤形成術(自家骨移植術)
骨幅と骨の高さが不足し適切なサイズのインプラントが不可能である場合に適応される骨の移植手術です。 使用するのはご本人の骨のため生体適合性が最も良く,十分な強度と骨幅が得られる最良の方法です。ただし,移植した骨が安定するまで約4〜6ヵ月の固定期間が必要となります。
骨誘導法(GBR)
骨幅が不足している場合に行う手術です。骨が不足している部位に補填材を加え特殊な膜(生体内吸収性膜)で包み込み,補填材の隙間にご自身の骨を誘導し増量させる方法です。この処置により力の負担が最も大きい歯頚部の確実な骨統合を導きます。補填材にはご自身の骨の他に,人工骨補填材料などを併用いたします。 左写真『1』は術前の状態です。『3』は術後3ヵ月後の術部です。骨幅が十分に増加していることが理解出来ると思います。
Q: どこから骨を取ってくるの?
A: 顎堤形成手術に利用される骨は,そのほとんどが『②下顎体部』と呼ばれる部分の骨を利用します。
採骨できる骨の量が多く,外科処置によるリスクが最も少ない場所です。
採取された部分にはコラーゲンシートで補填し縫合します。骨を取った部分は元に戻ります。
上あごの骨造成手術方法について。
上顎洞底挙上術(サイナスリフト)
上あごの骨の高さが不足しているときに行う手術です。上あごの奥歯の上方には「上顎洞」という空洞があります。ここに補填材(骨と同様の組成で最終的に自家骨に置き換わっていくもの)を填入することで、十分な骨の高さを作ります。 日本人の場合では平均7㎜程度の高さしかございません。 骨の高さが3㎜以下の場合には先に骨を作り,その後インプラントを埋入します。
骨の高さが5㎜程度あれば同時に行います。
上顎洞底挙上術(ソケットリフト)
上あごの骨の高さがわずかに不足しているときに行う手術です。インプラントを埋め込むための穴から補填材を入れて、2~3㎜程度の骨の高さを作り出します。サイナスリフトに比べて体への負担が少なく、治療期間も短くできるというメリットがあります。
骨がなくては安心できるインプラント治療はできません。そのために必要な処置が骨造成手術です。 この考えは家を建てる地盤の基礎工事と同じと考えていただけるとその重要性がご理解いただけると思います。
インプラントの人工歯(上部構造体)の周りには強く引き締まった歯グキが必要です。
組織粘膜誘導再生法
重要)インプラントと人工歯の境目は,非常にデリケートで抵抗力の弱い部分です。
そのため,常に清潔な状態を維持する必要あります。
歯を失うと歯の周りにあった角化歯肉(歯の周りにあるコラーゲン線維を含んだ,ピンク色の硬い歯グキの部分)も減少してします。
インプラントの人工歯を取り囲む歯グキが健康的な天然歯と同じように硬く,弾力があり,引き締まった歯グキであれば,歯周ポケットのバリアとして作用し,さらに歯間ブラシや歯ブラシの毛先が効果的に当てられ衛生管理がしやすくなります。 つまり,インプラント周囲炎(インプラント部分の歯槽膿漏)が予防しやすくなるのです。
写真①:矢印に囲まれた帯状の歯グキが,歯の周りに存在していた角化歯肉です。 写真②:コラーゲンシートを付着させた術後中写真。 写真③:術後4週目,角化歯肉幅の増加を示します。 写真④:インプラントの人工歯(上部構造)装着した経過を示します。
角化粘膜移植術
角化粘膜の幅が3㎜以下で組織粘膜誘導再生法が困難な場合に適応とされる方法です。移植する粘膜は上あごの粘膜を利用します。直接角化粘膜を移植するためGGR法より厚みがあり十分な角化歯肉幅が再生可能です。採取された上あごと移植を受けた部分には,カバーを付け圧迫しお食事により痛みが出ないよう配慮し治癒を待ちます。
写真①:骨造成処置後の角化歯肉幅は2㎜程度です。 写真②:粘膜の切開。 写真③:十分な角化歯肉幅を獲得(移植後4週間目)。